一般社団法人 生命保険協会は、「Well-beingシンポジウム~未来を創る“豊かさ”と安心のかたち~」を本日 5月15日(金)に開催しました。
国連未来サミットや政府の骨太方針で掲げられた「Well-being」。
その現状と可能性について、多角的に考えることが求められています。
このシンポジウムでは、伊藤豊金融庁長官の来賓メッセージに続き、 ウェルビーイング研究の第一人者・前野隆司教授(武蔵野大学)が基調講演を実施。
モデル・タレントのトラウデン直美さんをゲストに迎え、大学教授、生命保険業界・信託銀行・流通・不動産など多様な企業役員とともに、 幸福度を高める金融・社会基盤について議論が繰り広げられました。
シンポジウムの前半部分について取材しましたので、ご紹介します。
■開会あいさつ

佐々木豊成さん(生命保険協会副会長)
佐々木さん:
近年「ウェルビーイング」は様々な分野で用いられていますが、それは単に心身の健康や経済的充足だけでなく、自分らしく生きること、人との繋がり、将来への希望、社会の持続可能性まで含む広がりを待った概念として注目されています。
私たちは今、価値観の多様化や不確実性の高まりという大きな転換点に立っています。
何をもって豊かさや安心とするかの正解は一つではありません。
だからこそ、多様な考え方に触れ、それぞれのより良い生き方や社会のあり方を考えていくことが重要です。
生命保険業界は、従来の保障機能に加え、健康増進や資産形成、地域社会への貢献など、ウェルビーイング実現に向けた役割を一層多面的に果たしていきます。
本日の対話を通じて、業界の新たな可能性を皆様にお伝えし、持続可能で豊かな社会への確かな一歩となることを願っております。
■来賓メッセージ:

伊藤豊さん(金融庁長官)
伊藤さん:
生命保険協会の皆様が国民生活の安心を支えてこられたことに感謝申し上げます。
日本は高齢化が進み、平均寿命と健康寿命の間には約10年の差があります。
この期間を病気や介護の不安を抱えて過ごすのか、趣味や学びを楽しむのかが大きな課題です。
ウェルビーイングの増進には、万一の保障だけでなく予防や支援が不可欠です。健康増進型保険やウェアラブルデバイスとの連携など、皆様のイノベーションは国民生活に新しい価値をもたらします。
金融庁としても、顧客本位の業務運営を徹底しつつ、こうした前向きな取り組みを後押ししてまいります。
また、認知症や介護リスクへの対応、金融リテラシーの向上も重要です。一人ひとりが主体的にライフプランを考えられるよう、行政と業界が連携して環境作りに取り組みます。
本シンポジウムが、個人と社会全体のウェルビーイング実現に向けた新たな発想の場となることを期待しています。
■基調講演

前野隆司さん(武蔵野大学ウェルビーイング学部長・教授)
前野教授:
ウェルビーイングは16世紀からある言葉ですが、一般的になったのは1946年のWHOによる健康の定義からです。
それは単に病気ではない状態ではなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態を指します。
日本では近年、教育改革やデジタル庁の地域活性化などでこの概念が重視されています。
20世紀はGDP(国内総生産)が指標でしたが、21世紀は幸福度と経済が必ずしも比例しなくなっており、GDW(国内総ウェルビーイング)も計測し、多様な指標で豊かさを図る時代になっています。
SDGsの序文にも、ウェルビーイングの追求が記されています。
研究の結果、幸せな人は視野が広く利他的であることが分かっています。
利己的に自分の利益だけを追うのではなく、他者を思いやることで幸福度は高まります。
また、幸せには「長続きしない幸せ(地位財:金、物、地位)」と「長続きする幸せ(非地位財:健康、心、安全)」があります。
私は心の幸せに重要な「4つの因子」を提唱しています。
「やってみよう」因子:主体性、やりがい、強みを持つこと。
「ありがとう」因子:繋がりと感謝、利他の心を持つこと。
「なんとかなる」因子:前向きさと楽観性。
「ありのままに」因子:独立心を持ち、他人と比較せず自分らしくいること。
これらを満たすことで人は幸せを感じます。全ての人が視野を広く利他的になり、この4つの因子を意識できる社会になれば、環境破壊や紛争といった世界の諸課題も解決できるはずです。
資本主義の行き過ぎによる分断に対処するだけでなく、ウェルビーイングという理想を掲げながら、それぞれのビジネスや活動をしていく必要があります。
皆様も、自分が社会の幸せを担っているという広い視野を持つことで、より意欲的に活動できるのではないでしょうか。理想を片方に置きつつ現実に立ち向かい、皆で力を合わせて幸せな社会を作っていきましょう。
■トークセッション テーマ「より良い生き方ってどういうこと? 正解のない時代に幸せをどう選び取るか」

MC 新井麻希さん(フリーアナウンサー)

宮田裕章教授(慶應義塾大学医学部)

トラウデン直美さん(モデル、タレント)
- ご挨拶代わりに自己紹介をお願いします。

宮田教授:
慶應義塾大学医学部の宮田です。
私は4月から飛騨を拠点にした新しい大学(共創学環、Co-Innovation University)を作ったりしております。
大学全体を束ねるイノベーション・エコシステムの代表なども務めており、色々な活動をさせていただいています。
先ほど登壇された前野先生とは「ウェルビーイング・アワード」も一緒にやっております。

顔を赤らめながら名札を外すトラウデンさん
トラウデンさん:
トラウデン直美と申します。私は13歳からモデルや芸能のお仕事をさせていただいていて、大人に囲まれて育つ中で本当に色々なことを学ばせていただきました。
今日は「ウェルビーイングって何だろうな」ということを、これまで関わってきた人たちから学んだことや、私自身が経験したことを含めて、皆さんと一緒に考えさせていただければなと思います。
あ、名札を外していいと言われたので外しますね。登壇直前に外すタイミングを逃してしまって(笑)
- 最初のテーマは「ウェルビーイングとは」です。
お二人がこの言葉をどのように捉えているか伺いたいです。
宮田教授:
50年前に作られた定義では「身体、心、そして社会的な繋がりが良好な状態」とされています。
しかし、それが具体的に何を意味するのかは、やはり一人ひとりによって違います。
私自身、今回「ウェルビーイングなものを持参してください」と言われまして…
実は今日は「ペンギン」のことしか考えていなくて(笑)
私はペンギンが大好きなんです。
周囲からは冷ややかな目で見られたりもするのですが、私にとってのウェルビーイングの一側面は、この「推し活」にあります。
もちろん生活の全てをペンギンに捧げているわけではありませんが、突き詰めていくと、ペンギン、特に私が一番好きな「皇帝ペンギン」はどうなるのかという問いに行き着きます。
- 皇帝ペンギン、可愛いですよね。
宮田教授:
子供が超可愛いんですよ。でも、南極の皇帝ペンギンは環境破壊のリスクに一番さらされていて、あと少しで数が半数になるとも言われています。
つまり、「ペンギンが好き」という私の推し活を突き詰めていくと、必然的に「環境を大切にしなければならない」という大きな社会テーマに繋がるんです。
好きを突き詰めることで色々な繋がりが生まれ、それが社会貢献にもなる。これが私なりのウェルビーイングの形です。
ペンギンの話をすると、私は本当に楽しいんです。
- 宮田先生の今日の黒い服と白い髪も、もしかしてペンギン意識ですか?
宮田教授:
意識したことはなかったんですけど、ある番組で「パンダとペンギンが好き」と言ったら、「それに影響を受けてるんですね」と言われました。
トラウデンさん:
今のお話、すごく感動しました。
私も環境問題に興味があって活動していますが、先生がおっしゃる通り「好きなものを守ること」を突き詰めると環境問題に繋がるというのは、まさにその通りだなと感じます。
私自身のウェルビーイングについては、少し抽象的ですが、「人生のままならなさを理解した上で、自分を好きでい続けられるようにすること」だと考えています。
- 自分を好きでい続けること、素敵ですね。

トラウデンさん:
すごく難しいんですけどね。生きていれば色々なリスクがあります。
人との繋がりで傷つくこともあるし、私のような波のある仕事だと「この先ずっとお仕事をいただけるかな」という不安もあります。
そういう色々な「ままならなさ」がある中で、どうすれば今生きている自分を好きでいられるだろうか、自分の「安心」とは何だろうか、と考えることはウェルビーイングの大きなヒントになると思っています。
そして、私の「推し」は馬なんです。
宮田教授:
馬、ですか。

トラウデンさん:
はい、乗馬を9歳か10歳の頃から続けています。
馬は言葉を話せませんが、人間のエゴを押し付けるのではなく、相手の幸せを考え、信頼関係を築く。
その「共鳴」を求める過程が、私にとってはとても大切な時間です。
宮田教授:
私の研究室にも馬が大好きな学生がいますが、馬に乗るというのは動物との共鳴において最も深い体験の一つですよね。
言葉が通じない相手と命を預け合って信頼を築く。
トラウデンさんのお話はウェルビーイングの本質を突いています。
西洋的な考え方では、ウェルビーイングは「はしごを登り切った状態」と捉えられがちですが、実際には「振り子」のように揺れ動くものです。
社会との繋がりの中で揺れざるを得ない自分をどう安定させ、コントロールできない「ままならない命」と向き合い続けるか。そのプロセスそのものがウェルビーイングなのだと感じます。
- 続いてのテーマは「潮流から紐解くウェルビーイングの必要性」。
なぜ今、これほどまでに注目されているのでしょうか。

宮田教授:
前野先生も「(幸福度で選ぶ時代に)なった」と断定されていましたね。
それは我々の願いでもありますが、重要な一歩です。
例えばSDGsでも、単に貧困から抜け出すための最低限の支援をするより、一人ひとりが「生きがい」を持って働くことや、現実と向き合うことを支える方が、結果として遥かに良い影響があることが分かってきました。
ミニマムな目標を達成するためにも、一人ひとりの生きがいやウェルビーイングを視点に据えることが不可欠になってきているのです。

トラウデンさん:
今のお話、ものすごく納得感があります。どんなに崇高な目標を掲げていても、その根本にある「目的」が共有されていないと、目標を達成した瞬間に燃え尽きてしまいます。
自分自身が何を目的として頑張りたいのか、それは小さなことでもいいのですが、自分が大切に思っているかどうかの「自分軸」をしっかり持っていることが大事だと思います。
今は情報があまりに多く、「こうあるべき」という強いメッセージに揺らされやすい環境だからこそ、より必要とされているのではないでしょうか。
宮田教授:
そうですね。価値観の変化という点では、企業のミッションそのものが変化しています。
以前は福利厚生の一部をウェルビーイングと呼ぶ程度でしたが、今は企業が社会全体のウェルビーイングにどう貢献するかが問われています。
トラウデンさんたちの世代や、さらに若いアルファ世代は、短期的な利益や人から搾取することを良しとしない価値観を強く持っています。
グローバルでも国内でも、ウェルビーイングを軸に据えない企業は存続しづらくなっています。

トラウデンさん:
会社も一つの「人格」として、その会社のウェルビーイングが何なのかを考える時代ですよね。
働く一個人としても、会社のウェルビーイングと自分自身のそれがどこで重なるのか、その接点にやりがいや目的が見えてくるのだと思います。
宮田教授:
まさにその通りです。最近のウェルビーイング・アワードの受賞企業を見ると、働く人たち一人ひとりが「自分のウェルビーイングとは何か」を可視化し、それが企業や社会の目標とどう結びついているかを意識しています。
そのコミュニティの一体感が本当に素晴らしいんです。

- 一人ひとりの「大事なもの」を繋ぎ合わせていく作業ですね。
宮田教授:
そうです。私であればペンギン、トラウデンさんであれば馬。
それぞれの「好き」から始まる物語が社会と繋がっていく。
SDGsも、上から降りてきた概念に反発するのではなく、地域や文化圏の中から自分たちの「持続可能な未来」として立ち上がってくるプロセスが大切です。
- 次のテーマ「みんなが思うウェルビーイングの状態とは」。
会場とオンラインの皆様にもアンケートを行いました。結果はどうなったでしょうか。
…集計結果が出ました。「心の安定」が圧倒的に多いですね。

トラウデンさん:
やはり心の安定はベースとして重要ですよね。そこから身体の健康や人間関係にも繋がっていきますし。
宮田教授:
心の健康が高い状態にあれば、他者にも優しくできますしね。
ベースラインとしてここが選ばれるのは納得です。
トラウデンさん:
心の安定には、ある程度の「余白」や「キャパ」が必要だと思います。
思いがけないことが起きても受け止められる余裕がないと、パニックになってしまいます。
私も経験があるのですが、安心感と安定があって初めて、新しいことにチャレンジできるんですよね。

宮田教授:
私はよく「ペンギンモード」と「パンダモード」があると言っています。
ペンギンのように過酷な環境で身を寄せ合って頑張って働く時もあれば、パンダのように生存競争を放棄して極限までだらける時も必要です。
パンダは笹しか食べず、木から落ちたりして、とにかくまったりしています。
あのリラックスした姿を見て「これでいいんだ」と思える瞬間を作ることが、心の安定に繋がります。
なりたいのはパンダなんですよ(笑)
トラウデンさん:
私も最近、「ダラっとしている自分」を肯定することを課題にしています。
以前は「これをやらなきゃいけないのに」という罪悪感を持ってしまいがちでしたが、罪悪感なしに休息できる状態を目指しています。
その「心の安定」というベースを築く上で、私は馬から人生を学んでいます。
馬には「ミラー効果」があって、接する自分の状態を鏡のように映し出すんです。
自分が威圧的だと馬は動いてくれません。馬との対話を通じて、自分の弱点や「どうあるべきか」を日々学んでいます。
- 続いて「自分のウェルビーイングを実現する中での壁と解決策」について伺います。
他者との衝突や自分らしさとの折り合いをどうつけていますか?

トラウデンさん:
私は元々「ベキベキ・ネバネバ思考(~すべき、~せねば)」が強くて、自分にも他人にも厳しく、いちいちモヤモヤしてしまっていました。
でも最近は、良い意味で自分にも相手にも期待しすぎないようにしています。
「できない日もあるよね」と自分を理解してあげると、他人の状況も汲み取れるようになり、すごく楽になりました。
調子が悪い時は人に甘え、良い時は人を助ける。その循環を大切にしています。
宮田教授:
素晴らしい成長ですね。私は、あえて「違和感」と向き合うことを大事にしています。
以前は価値観の近い人とだけ仕事をしていましたが、最近はアーティストのように直感で動く、自分とは全く異なるタイプの人たちと対話するようにしています。
そこで生じる衝突を排除せず、「何を一緒に作りたいのか」「どんな未来を考えたいのか」という少し高い目線で向き合うと、プライドのぶつかり合いにならず、ポジティブな共創に繋がるんです。
- トラウデンさんは保険という存在をどう感じていますか?

トラウデンさん:
20代前半までは遠い存在に感じていましたが、最近は周りで結婚や出産、転職など人生の選択をする友人が増え、保険の話がよく出るようになりました。大人になってきたなと感じます(笑)
大きな不安を抱えたまま新しいことに飛び込むのは勇気がいりますが、安心の土台があればチャレンジしやすくなります。
私にとって保険は、人生の選択肢を広げ、明るい方向へ行ける可能性を増やしてくれる「心の余白」のようなものだと感じています。
宮田教授:
まさにその通りで、保険とは「未来を選べる時間を作るための余白」と言えます。
社会が激変する中で、自分のプロジェクトや人生が思い通りにいかない時に、備蓄や余白があれば次の未来を考える時間が作れます。
保険という言葉の前に「心の」という言葉がついているようなものですね。
- 最後に「働くことで感じるウェルビーイング」についてメッセージをお願いします。

トラウデンさん:
私はお仕事を通じて本当にたくさんの豊かさを感じています。
人と繋がり、対話することで自分の中が整理され、一つの軸が立っていく感覚。
社会や世界の出来事を自分事として考える時間。そして、仲間と一緒に一つのものを作り上げる面白さ。報酬も社会から認められた証の一つとして、また頑張ろうという励みになります。
仕事を通じて幸せを積み重ねていけることに、本当に感謝しています。
宮田教授:
豊かさの定義は今、大きく変わりつつあります。
農業革命の頃は食料の確保、産業革命の頃はお金が人生の選択肢を広げる手段でした。
しかし、これからは「新しい豊かさにどう貢献できるか」が価値になる時代です。
社会課題を解決し、他者のウェルビーイングに貢献すること自体が、自分自身の豊かさになっていく。
そうした新しい価値を共に作っていくことが、これからの時代のリーダーシップになっていくでしょう。
- 日は本当に豊かなお話をありがとうございました。

(取材: 森川 創)
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