楽しいニュース.com

世の中の明るいニュース、あつめました!

2019.10.09科学・Tech, 話題・おもしろ

文部科学省担当者に聞く 「プログラミング教育」で小学校の授業はどう変わる?

左 清家 祥子さん  右 中川 哲さん

 

スマホやパソコンだけでなく、AIやロボットなどの話題を目にしない日がないぐらい ITが身の回りに浸透してきています。
今後、ますます ITに触れる機会が多くなっていく社会に対応できるように、来年、2020年度からの小学校で「プログラミング」の授業が必須化されるというニュースを聞いた人も多いのではないでしょうか。
そこで、楽しいニュース.com では、文部科学省でプログラミング教育の推進を担当している 初等中等教育局 視学委員 併 学びの先端技術活用推進室 参与 併 プログラミング教育戦略マネージャー 「未来の学びコンソーシアム」プロジェクト推進本部 本部長代理の 中川 哲さん(以下、中川さん)に来年度から小学校に導入されるプログラミング教育についてお話を聞いてきました。
インタビューには 一児の母でもあり、教職課程を履修したモデルの清家 祥子さん(以下、清家さん)にも同席してもらいました。

 

—– 中川さんの担当されているお仕事を紹介していただけますか。

 

中川さん:
初等中等教育局は、幼稚園から高校までをみている部署です。
視学委員というのは簡単に言うと学校に対するアドバイザーといった役割です。
今は、2020年度から小学校で開始されるプログラミング教育について携わっています。

中学校には「技術・家庭」という教科があって、いわゆる「技術」の授業の中にコンピューターを扱っていますし、高校も「情報」という授業があります。
2021年度からは中学校でもコンピューターだけでなくプログラミングについても詳しく取り上げまることになっています。
2022年度からは高校も「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」という新しいカリキュラムに変わります。

このあとお話しますが、プログラミングについて小学校では体験的に取り組んで、中学校は教科の中の一部の単元として、高校から教科となります。
また、2024年度からは、大学入試で行われる「共通テスト」の科目の一つとして「情報Ⅰ」が検討されています。

 

(中川さん説明資料より)

 

清家さん:
中学時代は、プログラミングに関する授業はほとんどなく、高校では「情報」という週 1回ほどの授業はありましたが、日ごろからパソコンに触れていない同級生はついていけない子もいました。
もっと早い時期に予備段階の授業があったら良かったと思いますね。

 

中川さん:
コンピューターは何でもできる汎用性の高い機械なので、電話機やテレビなどに比べてどんな用途で使えるものか直感的にわかりにくい側面があります。
子どもの発達段階から考えて、中学・高校ぐらいから学んだほうがよいのではないかという意見もありますが、2020年度の新学習指導要領から小学校でプログラミング教育を導入される背景には、AIの進展が大きく影響しています。

 

(中川さん説明資料より)

 

Googleがアルファ碁という囲碁のAI プログラムを作って、囲碁の世界チャンピオンを AIが破ったというニュースを聞いたことがあると思います。
教育に携わる人間として、今後、ますます AIが社会に浸透していく時代を生きる子供たちにどういう教育をしてあげないといけないだろうかという議論が起こりました。
早い時期からコンピューターやプログラミングに慣れ親しんでもらい、コンピューターの得意な分野、不得意な分野をわかるようになることが重要ということで、小学校でのプログラミングをはじめ、中学・高校の授業を変えるという大きな流れになっています。
特に小学校では、まだ抽象的な概念が理解しにくい年齢です。
コンピューターも同じように概念的なものなので、小学校では体験的に学んでもらって、中学以降で、だんだん専門的に学んでもらえるようになっています。

 

—– 具体的にはどのような授業になるのですか。

 

中川さん:
キーボードからプログラミング言語をタイピングしていくような授業はメインではありませんし、「プログラミング」という教科もありません。
一般の教科などの中で体験的に楽しく子供たちに学んでもらえるようにし、また、多くの時間をプログラミングに充てるという規定も新学習指導要領にはもうけていません。

 

清家さん:
算数の図形で使う例示をプログラミング教育のホームページに書いてあるのを見ました。

 

中川さん:
はい、5年生の算数の「正多角形の性質」と 6年生の理科の「物質とエネルギー」でプログラミングを取り入れることが考えらるという例示を掲載しています。

 

 

—– 4年生よりも下の学年では、教えないということですか。

 

中川さん:
いいえ、あくまでも例示ですので、他の学年で行っても構いませんし、学科も算数や理科だけでなく、たとえば、「総合的な学習の時間」の中で行っても構いません。

 

清家さん:
私が小学生の時は、「総合的な学習の時間」で自分たちで地域のお店などを調べたり、地域の特産品を調べて実際にインタビューに行って、みんなの前で発表したりしていました。

 

中川さん:
先日テレビで放送した「徳光・木佐の知りたいニッポン!~未来につながる力を学ぶ プログラミング教育」では、京都の小学校で「総合的な学習の時間」の中では、LINEのチャットボットを使って、お寺や町の魅力を観光客に知らせようという公開授業を取り上げていました。
今までなら、調べたことを模造紙に書いて発表していたことを、観光客が LINEに「大徳寺はどんなお寺?」と問いかけると「大徳寺は、〇〇というお寺です」と答えて、地図を表示してくれるように LINEにプログラミングするという授業です。

 

(中川さん説明資料より)

 

学習指導要領というのは、総則という全体について書かれたものと、各教科ごとに書かれたものに分かれています。
ただ、学習指導要領にもとづいて書かれた教科書には、例示に沿ったプログラミングの記述があります。
繰り返しになりますが、プログラミングの例示も書かれていますが、それ以外の教科や単元でプログラミングの授業を取り入れてももちろん構いません。

 

学習指導要領(上 小学校学習指導要領、左下 小学校学習指導要領解説 理科編、右下 小学校学習指導要領解説 算数編)

 

—– プログラミングといってもいろいろなプログラミング言語がありますし、具体的にはどういったものを使うのでしょうか。

 

中川さん:

例えば、スクラッチという MITが開発した無償のプログラミングツールを使います。

猫のキャラクターを 100歩動かして、何度傾けて、それを何回繰り返すといったことを行って、図形を描くというプログラミングを直感的に、体験的にほとんどの操作をマウスを使うことでプログラミングしていくというものになります。

 

スクラッチの画面

※ Scratch is a project of the Scratch Foundation, in collaboration with the Lifelong Kindergarten Group at the MIT Media Lab. It is available for free at https://scratch.mit.edu

 

(中川さん説明資料より)

 

小学校を中心としたプログラミング教育ポータル の中には、どのようにプログラミングの授業を行ったらよいかという指導案を掲載しています。
物理的なブロックを組み合わせたものを動かすプログラミングのツールを使った指導案や、言葉の使い方をプログラミングを体験しながら学習させることなどもありますなど、多くの指導案が提供されています。
たとえば、猫「が」ネズミ「を」追いかける。というのを、猫「を」ネズミ「が」追いかけると入れ替えると、実際に、猫とネズミのイラストが入れ替わって表示させるような動きに変わるような事例サンプルプログラムも提供しています。

先生にプロフェッショナルなプログラミングスキルを持ってもらうというのはなかなか難しいですので、授業が着実に楽しく実施してもらえるように教材や指導案を作って提供しています。
学校の先生向けにスクラッチで正三角形を描くプログラムの作り方を Youtubeで公開しているのですが、誰でもご覧いただけますので、ぜひご家庭で保護者の方にも見ていただきたいと思います。

 

 

—– プログラミング教育は文部科学省だけが行っているのでしょうか。

 

中川さん:

学校内の教育課程で行うプログラミング教育は、文部科学省が推進しています。
学校の教室を使って地域の NPO法人などが行うことは、総務省が推進しています。
他の教育と同様、プログラミングについても、関係省庁が連携して行っています。

 

(中川さん説明資料より)

 

—– 小学生をもつ保護者の方へ何かアドバイスがあればお願いできますか。

 

中川さん:

キュウリ農家は、キュウリを栽培するのが仕事ですが、8割の仕事は、収穫したあとの仕分け作業だそうです。
まがっているキュウリは安く、太くてまっすぐなキュウリは高く取引されます。この仕分け作業を AIを使って行っているそうです。

町で売っている USBカメラとラズベリーパイという数千円で買えるパソコンにプログラムを組み込んでいるだけでできてしまうそうです。

また、農業高校では、農薬散布はドローンを使って行うという演習授業があるそうです。
店舗の前を通る人をカメラで撮影してどんな人がどんなものを購入するのかを分析して、その分析に基づいて、店の陳列方法を変えたりしているそうです。

 

(中川さん説明資料より)

 

身近なところでも どんどん AIが浸透してきています。こんな社会に子供たちは巣立っていくことになります。
国では、このような目指すべき未来社会の姿として Society 5.0 として提唱しています。

(期間限定で、Society 5.0 の動画を配信しています。https://www.gov-online.go.jp/cam/s5/

 

 

保護者のみなさんには、子供に IT機器を持たせたくないと思われている方もいらっしゃると思います。
しかし、子供が大人になったころには、このような社会が待ち受けています。
こういったものに使われる人材ではなくて、使いこなしたり、作ったりする人材になってほしいと思い、小学校でプログラミング教育を導入しようとしています。
子供に IT機器を持たせないのではなく、使ってはいけないときに使わないように教育することが重要です。
必要なときには、サッと使って、使う必要がないときには使わないというメリハリが大切です。

やみくもに禁止するだけでは、子供は夜、親の目を盗んで使ってしまうかもしれませんし、学校で行わなければ、その分、しわ寄せが保護者のみなさんにIT教育の負担がやってきます。
学校を通じて社会全体でやっていきましょうということです。

実は、ヨーロッパでは、日本よりも先にプログラミング教育を小中学校で進めています。
イギリスでは、7歳でアルゴリズムを理解する授業を行っています。11歳で、条件分岐や繰り返し・デバッグなどを学習します。
14歳までに適切なデータの構造や探索のソートアルゴリズムを学習します。

 

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、科学的なリテラシーや数学的なリテラシーは、日本の子供は世界のトップクラスにあるのですが、読解力は少し下がって、世界で 6位です。
この時に調査に使ったのは 紙ベースではなく、パソコンを使ったテストで、普段、あまりパソコンの画面を見る機会がないため、順位が落ちてしまったと考えられます。
13歳~15歳の子供の家庭でのパソコン所有率は、イギリスで 75%、アメリカで 65%なのに対して、日本では、22.1%しかありません。
一方、日本のゲームの所有率は、50%ぐらいあって、世界で断トツ ナンバーワンです。このような状況は改善していかないといけないと考えています。

 

(中川さん説明資料より)

 

清家さん:
確かにその数値は説得力がありますね。
目が悪くなるからパソコンは使わせないという親御さんもいますが、よほどゲームのほうが悪くなりそうですね(笑)

 

中川さん:
スマホも同じですが、パソコンを与えて、使ってはいけない時間帯というルールをちゃんと設けることが大事です。

 

清家さん:
そういうルールを家庭で子供に習慣づけさせる教育をしておくことが、子供が社会に出た時もマナーという面で役立ちますね。

 

中川さん:
使い方を教えるということと使わない時間を教えることで、世界に通用する人材に育っていくと思います。

 

 

—– 最後に一言メッセージをお願いします。

 

中川さん:
一般的な社会に比べて、学校のパソコンの設置状況やネットワークの接続状況がかなり遅れています。
学校とインターネットの距離を近づけたいと思っています。
インターネットには負の側面もありますので、そこもしっかり理解して、自分をどう守るかということにも気を付ける必要があります。
ただ、危ないからといって近づかないまま大人になって、ネット詐欺にひっかかってしまうと、そちらのほうが被害が大きくなるケースもありますから、学校の環境を整備していきたいと思います。

それから、勉強は楽しいと思ったときに集中力が高まり、身についていくと思いますので、プログラミングの授業を通じて、コンピューターは楽しいなと思ってもらえるようにしていきたいです。
小学校のプログラミング教育はとにかく楽しんでもらえることに軸足を置いていきたいです。

 

 

—– 中川さん、ありがとうございました!  清家さん、今回の取材を通して、プログラミング教育について、どんな印象でしたか。

 

清家さん:
コンピューターに使われる人間ではなく、活用する人にならなくてはならないという言葉にハッとさせられました。
少し前までは得意な人だけが活用できればよかったのですが、ほぼ全ての職種で活用していかなければならない時代に変わってきたのだと知りました。

 

小学校のプログラミングの授業例では、気軽に体験的にでき、楽しみながらやることをとても大切にしてくれているので、私の娘も小学校に行った時には、楽しみながら学んでほしいなと思いました。

 

時代の流れで必要性が高くなっていること感じていても、親の心配としては、コンピューターの勉強を小学生から行って、発達途中の眼に悪影響があるのでないかとか、危ないことに巻き込まれないかということがありました。
だからといって、遠ざけようとしても、世の中にコンピュータは溢れていますし、いずれ使うことになります。
これからは、危ないからと遠ざけるのではなく、使う時間を決めたり、どういうことが危ないのかを知って、よい付き合い方を学んでいく必要があるのだなと思いました。

 

 

(インタビュワーモデル 清家 祥子、執筆・撮影 森川 創)
関連リンク:
小学校を中心としたプログラミング教育ポータル
https://miraino-manabi.jp/

SCRATCH
https://scratch.mit.edu/

Society 5.0
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

 

清家祥子プロフィール
https://satorujapan.co.jp/ncgi2/composite.cgi?model_id=1449

清家祥子インスタグラム
https://www.instagram.com/seike.s/